REPORT

#04

SPECIAL INTERVIEW

アートとホテルの融合で切り拓く
新たな社会。

アートと宿泊施設という一見異なる分野の融合が、社会に新たな価値をもたらしている。障害のある作家のアートを軸とした事業を進めるヘラルボニーと、地域創生に取り組むホテル事業「fav」を展開する霞ヶ関キャピタル。両者が共創するプロジェクト「fav | HERALBONY」だ。目指すのは、アートを通じて宿泊の価値観を変え、社会を少しずつ面白くしていくこと。
意識が変わり、行動が変わり、生き方が変わる。
仕掛け人の二人が語る、背景や未来への展望にまつわるディスカッション。

松田崇弥さん

松田崇弥さん

Takaya Matsuda

1991年生まれ。双子の弟。小山薫堂率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズを経て独立。4歳上の兄・翔太氏が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に2018年7月、ヘラルボニーを設立。代表取締役社長。クリエイティブ担当。東京在住。

淺井佳さん

淺井佳さん

Kei Asai

霞ヶ関キャピタル株式会社ブランドアンドマーケティングディレクター。静岡県出身。東京都立大学大学院建築学専攻修了。新卒でIDĒEに入社後、ディベロッパーを経て不動産サイトR-STOREを設立。「泊まれる本屋」BOOK AND BED TOKYOを運営するアトリエブックアンドベッド株式会社代表取締役を経て、霞ヶ関キャピタル株式会社入社。

( CHAPTER-1 )社会を変える挑戦。

松田さんが代表を務める株式会社ヘラルボニーは、障害のある作家たちが生み出すアートという独自の分野で注目を集めている。主に知的障害のある方々が描いたアート作品をライセンス管理し、企業やブランドとのコラボレーションを通じて社会に届ける取り組みだ。アートを使った製品販売や空間デザインの提供など、多岐に渡って活動を展開しており、「ヘラルボニーの使命は、アートを通じて障害に対する価値観を塗り替えること」と松田さんは言う。

一方、淺井さんがブランドアンドマーケティングディレクターを務める霞ヶ関キャピタルは、地方創生をテーマにホテル事業を展開。なかでもアッパーラインであるFAV LUXも含めたfavシリーズは、地方主要都市に13施設を運営し、観光と地域活性化を目論む注目のプロジェクトだ。淺井さんは、「ホテルは単なる宿泊場所にとどまらない、その地域の魅力を発信する重要な拠点。また多くの人にリーチするメディアとしての側面もある。ホテルをフックにどんな価値を世の中に提示していくべきかをいつも考えている」と語る。

この二社が出会い、始まったプロジェクト「fav|HERALBONY」。それはアートと宿泊の枠を超えた「価値の共創」と言えるだろう。

( CHAPTER-2 )favがアートを迎え入れるまで。

淺井さんが初めてヘラルボニーのアートに触れたのは、東京建物のギャラリーでの展示会だった。「作品を見た瞬間、ただただ『かっこいい』と感じました。アートの背後にある障害を持った方の話や福祉的な要素を意識する前に、作品そのものの力に圧倒されました」と振り返る。

同時に、松田さんにとっても今回の連携は新たな挑戦だった。「ホテルという多くの人が訪れる空間でアートを展開するのは、私たちにとっても大きなチャレンジでした。まだまだ不安もありますが、単なる装飾ではなく、社会に価値を生み出す場にできる可能性があると感じています」と言う。

今回のプロジェクト「fav|HERALBONY」では、障害のある作家が描くアートがインテリアや装飾に取り入れられている。例えば、客室に飾られるクッションやカーテン、壁に掛けられるアートピースなどは、ヘラルボニーがライセンス管理する作品。「アートが空間に与える影響は大きいです。宿泊をきっかけに、作品に触れ、背景にあるストーリーや多様性を感じてもらえれば」と淺井さん。

松田さんも、「障害のある人のアートというと、特別扱いされるイメージを抱く人もいるかもしれません。しかし私たちは、まずデザインとして魅力的かどうかを一番に考えています。宿泊者が自然に『素敵だな』と感じ、それが障害のある作家が描いているアートだったと後で知る。そういった流れが理想的です」と続けた。

「あるお客様からは、『このアートが気に入りすぎて家にも飾りたい』というお声をいただきました。そういったきっかけをホテルが提供できたことが嬉しい」と淺井さん。

( CHAPTER-3 )二人が描く未来の社会。

お二人は共に「社会の価値観を変える」というビジョンを掲げている。松田さんは次のように話す。「障害のある作家のアートが特別視されず、自然に受け入れられる社会。それが私たちの目指す未来です。最終的にヘラルボニーが必要なくなる日が来たとしても、それは目指すべきゴールだと思っています」。

実際、松田さんが描くビジョンは、すでに国際的な評価を得ている。ヘラルボニーは2024年、世界的なラグジュアリーブランドグループであるLVMHのイノベーションアワードを受賞。この栄誉について、「LVMHの賞を受賞できたことは、障害のある人のアートに対するポテンシャルが、日本国内だけでなく、世界でも通用することを証明してくれました。審査員の方々に評価されたのは、アートそのもののクオリティや新規性であり、障害という枠組みを超えた価値でした。これをきっかけに、世界中の人々に障害のある作家のアートの魅力を届けたいと強く思っています」と、未来を見据えながら笑顔で話す。

淺井さんも、この受賞が持つ意義について、「favでヘラルボニーのアートを導入することが、単なる日本国内の取り組みにとどまらず、国際的な影響を持つものだと実感しました。ホテルを訪れる海外のお客様にとっても、HERALBONYとの協業を通じて日本の多様性や文化を感じてもらえるのではないかと思います。それはゲストエクスペリエンスとしても素晴らしいこと」と期待を寄せている。

また、ヘラルボニーは受賞を機にフランス・パリ法人設立をはじめとする海外展開を加速させている。「世界のラグジュアリーブランドと連携する中で、私たちは障害のある作家のアートの新しい可能性をさらに模索しています。これからは、フランスだけでなく欧州全体での展開を目指し、アートが生む価値を世界に示していきたい」と松田さん。

淺井さんもまた、「例えばfavを日本国内だけでなく世界で展開する際には、ヘラルボニーのアートがその核となる可能性がある」と期待を寄せます。「地方創生や観光業の革新というテーマは、日本だけでなく世界のどの国でも通じるもの。この取り組みをグローバルなスケールで発展させたいし、より多くの人々に価値を届けたい」と展望を語ってくれた。

「アートと宿泊」の融合は、単なるビジネスモデルを超えて、社会全体の価値観や仕組みに変革をもたらそうとしている。障害のある作家のアートが描く未来と、それを支えるホテルという場。淺井さんと松田さんの挑戦が、これからどのように社会を面白く、そして多様性に満ちたものにしていくのか、ますます目が離せない。

Photo:Atsutomo Hino
Text&Edit:Jun Nakada