REPORT

#05

FAV LUX 札幌すすきの

地元発のアートが滞在を彩る。
多様な想いとストーリーが詰まった宿泊空間

「FAV LUX 札幌すすきの」(2025年7月1日にグランドオープン)に常設されている、ヘラルボニーと協業したアートルーム「ユニバーサル with ヘラルボニー」。
北海道ゆかりのアーティスト3名の作品に満たされた部屋は、まさに旅の途中に心を預けたくなるような安らぎの空間になっています。実際にこの部屋を訪れた作家たちの表情や、このコラボレーションに込められた想いに迫ります。

( CHAPTER-1 )原画と作家が
ヘラルボニールームに集う。

札幌市中心部に位置する「FAV LUX 札幌すすきの」。館内にはFAV LUXブランド初となる大浴場&サウナ、長崎で行列を生む「JUNE COFFEE」の出店などとともに、新設された客室「ユニバーサル with ヘラルボニー」が注目の的に。

この部屋の扉を開けて目に飛び込んでくるのは、北海道の福祉施設・愛灯学園に所属する作家の作品が採用されたインテリアの数々です。開業記念イベントの際には、作品を手がけた遠藤弘司さんと冬澤千鶴さんも来場。ロビーに展示された自身の原画や、客室に広がる作品を温かく見守っていました。

「ユニバーサル with ヘラルボニー」(以降、ヘラルボニールーム)は、クイーンサイズのベッド2台を備えた約38㎡のユニバーサルルーム。バリアフリー対応で、障害のある人もそうでない人も、誰もが快適に過ごせるストレスフリーな設計になっており、そこに地元発のアートの彩りが加わることで唯一無二の空間になっています。カーテンいっぱいに広がる抽象画や、アートに彩られたソファ、さらには壁に掛けられた迫力あるアートパネルなど、作品に囲まれた客室は、泊まるだけでアートが放つ彩りに浸ることができます。

愛灯学園のスタッフさんとともにヘラルボニールームにやって来た、遠藤さんと冬澤さん。冬澤さんは自分の絵が大きなカーテンになった客室を見渡し、ニコニコしながら「きれい!」と話します。

遠藤さんも目を輝かせ、部屋いっぱいに広がったアートや自身の作品をひつつひとつゆっくりと見つめていました。さらにこの日は、ヘラルボニールームに採用されている作品の原画もロビーに特別展示され、二人は自分の作品がホテルで披露される喜びをかみしめている様子でした。

( CHAPTER-2 )異彩が放つ魅力。
遠藤弘司さん、冬澤千鶴さん、佐藤司さんの世界。

ヘラルボニールームを彩る3名の作家は、日ごろ北海道帯広市の愛灯学園で創作活動に取り組んでいます。
遠藤さんは穏やかな笑顔が印象的で、筆談や会話は得意ではないものの、ひとたびキャンバスに向かうと、誰にも負けない集中力で作品を描き続けます(愛灯学園スタッフさん談)。

最初にたくさんある絵の具の中から好きな色を5種類ほど選び、段ボールで作ったパレットの上に出していく。そして、筆で絵の具同士を混ぜたり、色の順番を考えたりしながら、ゆっくりと約1時間半かけて色を塗っていきます。しかも、水をほとんど使わないので、絵の具が画用紙の上で徐々に混ざり合ってグラデーションになり、自然と凸凹とテクスチャのある作品が出来上がるという、ダイナミックな作風です。

その質感と力強い色彩感覚が際立つ遠藤さんの作品は、見る人に不思議な躍動感と郷愁にも似た温かみをもたらしてくれます。制作に打ち込む姿は静かですが、内に秘めた熱量が宿った一枚が、ヘラルボニールームでは大きなアートパネルとなって飾られています。

一方、冬澤さんの作品はヘラルボニールームのカーテンとして部屋を包み込んでいます。2016年頃から本格的に絵を描き始め、描画時は必ず床に座り込むという冬澤さん。納豆ご飯とパイナップル、飲み物にはアクエリアスというのが毎食のルーティーンで、毎週日曜日に行く100円ショップでコスメ用品を買うのが楽しみなのだそう。

描画のベースは紙だけでなく、施設内で不要になった襖(ふすま)の戸板など、思いがけない素材も用いるなど、その発想はユニーク。紙や板にクレヨンで重ね塗りをし、その上をヘラで削って無数の線を刻み込むという独特の手法によって、生き物のように伸びやかな線と独特のテクスチャーを生み出します。

その躍動感あふれる抽象画がプリントされたカーテンは、室内でもひと際、優しい色彩を放っています。

そして、クッションカバーに仕立てられたのは、佐藤司さんの作品。1958年生まれの佐藤さんは愛灯学園のベテラン作家。愛灯学園のスタッフさんによると 「細かい作業が得意で、ときどき目をつぶって瞑想時間(?)を大切にしながら、黙々と作業をしています。缶コーヒーを飲みながらアニメ番組を観たり、のんびりお風呂に浸かったりすることが大好きで、お寿司や天ぷらが大好物。ただ、ひとたび画家モードに入ると、紙を前に真剣な表情で色を選びながら描いていきます。ちょっとピリッとした雰囲気で、声をかけづらい空気もありますが、ふと目が合うととても優しい笑顔で返してくれるチャーミングな一面もあるんですよ」とのこと。

その人柄は作品にもにじみ出ていて、今回クッションになった絵柄からも柔らかな温もりが感じられます。自分の描いた絵がホテルのクッションになると聞いた際、佐藤さんは驚きつつも満面の笑みを浮かべ、ご家族もその知らせに大変喜んでいたそうです。

( CHAPTER-3 )「ここにしかない彩り」を求めて。
FAVブランドが描く未来。

この「FAV LUX 札幌すすきの」をはじめ、複数の施設でヘラルボニールームのプロジェクトを展開している、霞ヶ関キャピタルとヘラルボニー。「Stay together, Play together みんないれば、もっと楽しい。」というFAVブランドのタグライン(ポリシー)と、個性と彩りあふれるアートを通じて「異彩」を社会に送り届け、新たな文化をつくりだすことを目指すヘラルボニーのビジョンが重なりました。
FAVブランドを手掛ける霞ヶ関キャピタル・淺井佳さんは、「FAV LUX 札幌すすきの」とヘラルボニーのコラボレーションについて、「ヘラルボニーがあることで、FAVブランドのホテルはどなたでもウェルカムであるという我々の思いを表現したいと思っています。特にこの札幌では地元のアーティストとのコラボレーションが実現しました。その土地ならではの唯一無二の体験をしていただけたら」と話します。

両社は2022年以降、全国各地のFAVブランドの施設内にヘラルボニー契約作家のアートルームを展開。今後も数多くの拠点が新設される計画となっており、それに合わせてヘラルボニールームも増えていく予定です。

「ホテルは単なる宿泊場所にとどまらない、その地域の魅力を発信する重要な拠点です。札幌で誕生したヘラルボニールームも、北海道ならではの色彩と個性を宿した空間として、旅先に新たな彩りを添える存在になるはずです。 単に作品を飾るだけでなく、アートを介して誰もが心地よく過ごせる場を作りたいですね」

そう話す淺井さんの想いは、コラボレーションプロジェクトの仕組みにおいても体現されています。ヘラルボニールームは、1泊1室あたり宿泊者から250円、ホテル側から250円の計500円が作品利用料として作家に還元されるシステムを導入。

「これは支援ではなく、作品の価値に対して正当な対価を支払うことで、作家の創作活動を持続的に後押ししたいという狙いがあります。今後もヘラルボニーとの協業を通して、さらに多くの土地ならではの魅力をホテルから発信していきます」

続けて、「お客様にもこの部屋をきっかけにアートに興味を持ってもらい、作品の背後にある作家の思いや日常を感じていただくことで、旅の体験そのものがより豊かなものになると信じています」と話す淺井さんの想いの先には、プロジェクトの未来や目指す世界が広がっていました。

異彩を放つ作品が表現しているのは、壮大なコンセプトやテーマではなく、作家たちの日々の感情や好きな色、好きなもの、そして内側から湧き起こる描くことへの純粋な意欲。だからこそ、見る人の心にもまっすぐに届くのかもしれません。旅の途中、ふと思いかけず誰かの描いた世界に心をつかまれる。そんな体験を「FAV LUX 札幌すすきの」やヘラルボニールームはきっと与えてくれるはず。 ただ泊まるだけじゃない心に残る出会いを、ぜひその目で確かめてみてください。

アートが旅の一部になったとき、あらゆる風景や出来事がより彩り豊かになるかもしれません。

Photo:Junmaru Sayama
Text:Jun Nakada